2018年12月26日水曜日

知らなかったハワイのこと


矢口祐人氏のホームページを制作しました。
矢口先生は東京大学大学院総合文化教授です。ハワイに住む親友の友人であり仕事のパートナーでもあります。アメリカ文化・日米文化史を研究されていて、ハワイに関する著書があり、何冊か読んでみました。

みなみのしまのだいおうは
そのなもいだいなハメハメハ
ロマンチックなおうさまで
かぜのすべてがかれのうた
ほしのすべてがかれのゆめ
ハメハメハ ハメハメハ
ハメハメハメハメハ

小さい頃よく歌っていたな・・。
南の島のハメハメハ大王って、ハワイのカメハメハ王だったんだ・・・

『ハワイ王国~カメハメハからクヒオまで』では、8代まで続いたハワイ王国の王様と、王を支える妻たちのエピソードが写真とともに綴られています。

一代一代の物語、なかなか覚えられない名前を紙に書きながら・・・どんな人だったのかなぁと想像するのが楽しくて、一気に読みました。日本との交流もあり、第7代王の姪のカイウラニ王女を、明治の皇室に嫁がせるという話もあったそうです。

1778年にジェームズ・クックがハワイへ来航して以来、捕鯨船の休憩地として様々な人がハワイを訪れるようになっていたそうですが、カメハメハ2世の頃からキリスト教の布教が始まり、各地に教会が建てられて、ハワイ古来の神々や文化、人々の意識に大きな影響を及ぼしていったというのがとても印象的でした。

5世までは血縁、その後6代7代8代王は選挙で選ばれますが、白人資本家層のクーデターにより、8代女王リリウォカラーニの時に王国は崩壊してハワイ共和国に。スペインとの戦争がはじまったことで、軍事拠点としての価値が最優先され、なかば強引にアメリカに併合されます。

魚が豊富でサメの神さまのいる神聖な場所として、ネイティブハワイアンに大切にされてきた真珠湾は、アメリカの軍港となり、日本の標的にされ攻撃をうけました。現在はアメリカ環境省によって「汚染地区」と指定されてしまうほどの環境破壊がすすんでいるそうです。

”リメンバーパールハーバー”は、ネイティブハワイアンにとって二重の喪失である、と書かれていました。


ーーアメリカの一部になるくらいなら、石を食べて生活した方がいい。

ハワイのフラにはそんな激しい心情を吐露する歌もあるそうです。
ハワイのフラについての著書『ハワイとフラの歴史物語』では、フラは男性を喜ばせるいかがわしいダンスなどではなく、いかなる冒涜をも許さない厳格で神聖な宗教儀式であること、近年、現代フラとともにフラカヒコ(古典フラ)が見直され、ハワイアンのための学校の卒業生から、多くのクム・フラ(フラを教える資格をもっている人)が育ち、フラの伝統が今も大切に守られているそうです。

伝統的なフラが引き継がれる仕組みが、社会にしっかりと作られていることに感動します。先生が実際にフラ教室を開く友人宅を訪ねたり、踊ってみたりの実体験のくだりも面白かったです。副題が、~踊る東大助教授が教えてくれた・・となっているので、とても上手なのだとばかり。。(笑)


『ハワイの歴史と文化ーー悲劇とモザイクの中で』では、1900年頃ハワイに渡った日本の移民についての章が心に残りました。日本人がハワイに渡った経緯やサトウキビ畑での重労働。人種の差別化により暴動が起きないよう白人に管理されていたこと。働けど働けどお金が足りなくて日本に帰ることができない男たちは、日本に写真を送ってお嫁さん探しをしたそうです。


工藤夕貴主演の「ピクチャーブライド」という映画が紹介されていましたが、映画は観れず本で読みました。

男性の写真だけで裕福な暮らしを夢見て海を渡り、写真とはまるで別人のおじさんが見合い相手と知り、思わず泣き出してしまう十代のリヨ。夫にも現地にもなじめないまま、重労働と友人の死を乗り越え、少しずつマツジ(夫)を受け入れ、子育てをしながらハワイで骨をうずめる決意をするまでの物語です。

マツジが優しい人でよかった。実話をもとに、日系アメリカ人の女性が作った映画です。




『奇妙なアメリカ』では、アメリカ国内にある様々なミュージアムが紹介されています。
進化論を否定し聖書の創世記の記述を科学的に立証することを試みたミュージアムや、核爆弾を押す体験ができる原子力実験ミュージアム、ハリケーンの被害を記録したミュージアムや9.11のミュージアムも。

そしてハワイのアリゾナ・メモリアル。真珠湾攻撃により沈められた戦艦アリゾナ号の真上に浮かぶ、白くて細長いミュージアム。床のガラス窓からは、海底のアリゾナ号が見えるそうです・・・・

歴史上の出来事がどのように記録されているのか、ミュージアムの入口からなかの様子まで丁寧に描写され、その掲示のされ方から見えてくるアメリカを探っています。


今度ハワイに行ったら、カメハメハ大王像やビショップ・ミュージアムに行ってみたい。そして必ずアリゾナ・メモリアルに行こう。

恥ずかしながら・・12月8日という日を意識したのは、今年が初めてでした。
14日から始まった埋め立て工事のニュースが、真珠湾の歩みと重なります。技術が進歩して、すさまじい殺傷能力をもつ兵器が次々に製造されても、平和の守り方は100年前と何もかわっていない...。


ハワイ州庁舎には、カメハメハ3世のこんな言葉が刻まれているそうです。

ーー国家・土地の命は、正義によって守られる。



エチオピアに伝わる昔話、「黄金の土」の一節を思い出しました。

王さまのめしつかいが、船にのって帰ろうとする外国人の靴をぬがせて、靴底の土をていねいにこすりとるのですが、その理由を聞かれてーーー・・・・

ーーあなたがたは、とおいところにある、強い国からやってきました。そして、エチオピアが、世界で一ばん美しい国であることを自分の目でごらんになりました。この美しい国の土は、わたしたちにとって、なによりも大切です。この土の中にたねもまけば、なくなった人もうめるのです。

わたしたちは、つかれたときに、その上によこたわって休み、また、平原では、その上でウシやヤギをかうのです。谷から山の上につづいている道も、平原から森の中に通じている道も、みんなみんな、わたしたちの祖先の足と、わたしたちの足と、そして子どもたちの足でふみかためたものなのです。

エチオピアの大地は、わたしたちの父であり、母であり、きょうだいなのです。
わたしたちは、あなたがたを、あたたかくもてなしたし、めずらしいおくりものをさしあげました。

けれども、エチオピアの土は、わたしたちのもっているもののなかで、一ばんたいせつなものなのです。ですから、たとえ、ひとかけらの土でも、さしあげることはできません。
      
『山の上の火~エチオピアの楽しいお話』(岩波書店)より




ホームページの美しい写真はすべてご本人が撮影された写真です。
ブログトップはそのなかの真珠湾の写真をお借りしました。

友人のサイト同様に英語と日本語のページがあります。素敵な写真のスライドと著作本の紹介もあるので是非覗いてみてください。

※矢口祐人オフィシャルウェブサイト
http://yaguchiyujin.com/















皆さまよい年をお迎えください☆





2018年11月1日木曜日

子どもの本を読む ー 子ども文庫の会 


子ども文庫の会のホームページが完成しました。
子ども文庫の会は、山本まつよ氏が立ち上げて50年ほどの歴史ある会です。

子育て中に絵本にはまり、地域の図書ボランティア活動をしながら、好きな作家の関連本などを借りては一人楽しんでいましたが、憧れていた先生が病に倒れ急逝してしまったことがきっかけで(先生の師は山本まつよさんでした。)学べるうちにと、子ども文庫の会の初級セミナーに参加しました。

代々木にあるマンションの一室に、文庫の会の事務所があるのですが、三つある部屋はどれも床から天井まで本がびっしり。廊下にも
このなかの畳二畳ぶんほどのスペースで、セミナーをやっています。(狭さがまたちょっと楽しい、笑。)テーマに沿って、ひたすら本を読みます。

現在は代表を青木祥子先生が引き継がれているのですが、私にとっては文字通り本当に何でも知っている先生で、何でも聞いてしまいます。マンションを埋め尽くす山本まつよさんが集めたコレクションのなかには、今では手に入らないお宝本も多く、手にとって見せていただくだけでも本当に楽しいです。
。。。通い始めて今年で4年目となりました。 

文庫の会では、「子どもと本」という季刊誌を年に4回発行しています。
アメリカのメイ・ヒル・アーバスノット著『子どもと本(Children and Books)1964年版』を基本的な手引き書として、1980年4月に第1号を創刊してから現在に至るまで、子どもにどんな本がよいのかを真摯に考え、本を紹介しています。

なかには手厳しすぎる批判もあり、読みづらく感じるところもありますが、今月で全155冊となる「子どもと本」には、本の紹介以外に、心に響く識者の寄稿文や作家の想いがつづられた文章や受賞スピーチ、長編を読み進めているセミナーの連載、本の関連情報、文庫の子どもたちの様子や学校で読み聞かせをする際の悩みなど、読み応えのある記事がいっぱいです。A5版サイズで持ち運びしやすく、気軽にいつでも読み返すことができるのも魅力です。

ホームページには、この「子どもと本」の全バックナンバーの目次と特集記事の題名を載せ、好きな作家名や本の題名などで検索できるようにしました。
本には各自の”好み”があり、選書するうえでその要素はかなり大きいと感じていますが、ホームページが出来たことで、ネットから簡単にアクセス出来、子どもの本について真剣に考えている人、または自分で愉しみたい人の、新たな選択肢の1つとなれば嬉しいです。

子どもの本なんて・・・と思う人も、バックナンバーのなかに、小さい頃夢中で読んだ、なつかしい本を見つけて楽しめるかもしれません。

是非覗いてみてください☆

※子ども文庫の会ホームページ


2018年7月15日日曜日

センダック×マザーグース

4月から絵本セミナーでは、コルデコットの絵本を順番に読んでいます。
コルデコットに惚れ込んでいたセンダック。

センダックは著書『センダックの絵本論』で
”マザーグースの歌に絵をつけることは多くの人がやっていることだが
ランドルフ・コルデコットに匹敵する仕事をした画家は一人もいない”と
書いています。

私は、センダックの解説が面白くて、コルデコットの絵本が大好きになりました。
セミナーでは全冊揃っていて読むことができるのですが、コルデコット賞として、
誰もがその名を知っているというのに、「ジョン・ギルピンのゆかいなお話」以外
の彼の絵本はいま、買うことも図書館で借りることもできない状況です・・・
残念でなりません。

コルデコットに憧れていたセンダックはマザーグースの歌を使って絵本を三冊書いています。
6月の絵本セミナーでは、そのなかの
『わたしたちもジャックもガイもみんなホームレス』をじっくり読みました。

 
『わたしたちもジャックもガイもみんなホームレス
  -ふたつでひとつのマザーグースえほん』

わたしたち ぼくたち みんな ホームレス
ゲームは ブリッジ、ダイヤがきりふだ
こねこは みんな わるものたちに つれさられ
ちいさい おとこのこは かみつかれ
つきは かーっとおこりだす。
できるのは かべのない いえだけです。
   ---「わたしたち みんなゆううつ」

ジャックと ガイの ふたり
ライむぎばだけに まいおり
ちいさなおとこのこをみつけて
かためのくろあざに ぎょっとして
なんだ こいつ なぐっちゃえと
ジャックがいうと、
やめろと ガイはとめて
このこに パンをかってやろうよ。
きみ ひとつかってよ。
ぼくは ふたつ かうよ。
そして ふたりで そだてようよ
なかまも みんな そうしているよ
      ---「ジャックとガイ」

このふたつの歌から、創作された絵本です。
本のカバーの部分には段ボールのような紙を使用し、旧約聖書からうまれた「辺獄への降下」という絵画そっくりの画が表紙になっています。題名は前にはなく後ろに,,,。めぐまれぬ子どもたちの背景には、赤ん坊が飢えている!といった新聞記事やアウシュビッツ強制収容所、トランプタワーらしき建物、不動産広告など、世の不条理を訴えるような文字や絵があちこちに描かれます。

この本は、大好きなセンダックの絵本でも、ちょっと手に取るのを避けたくなる特別な感じ(負の迫力のようなもの)をうけていた絵本でした。セミナーでていねいに読んでみることで、センダックが伝えたいことを感じることができた気がしました。

あまり読み聞かせたいと思う本ではなかったのですが、毎年一回は読む方もいるそうで、
機会があったら小学校でも読んでみたいなと思いました。



第153号「子どもと本」では、この絵本について詳細に解説したイギリスの児童文学者ジェイン・ドゥーナン氏の文章が、14ページにわたって掲載されています。読み応えたっぷり。
興味のある方は是非読んでみてください。

※『子どもと本』は阿佐ヶ谷の「こどものほんや」で購入できます。





『ヘクター・プロテクターと
うみのうえをふねでいったら
 ―マザー・グースのえほん』

ヘクター・プロテクター、みどりのふくをきせられて
おきさきさまの ごきげん うかがい
おきさきさまは ごきげん ななめ
おうさまもまた ごきげん ななめ
ヘクター・プロテクター おいかえされた

うみのうえを ふねで いったら
うみが ぼくの うえに きた
みれば ちいさい くろどりが 2わ
いっぽんの きのうえにいて
1わがぼくを わるものとよび
1わは ぼくを どろぼうという
ぼくは ちいさい くろいぼうをかまえ
くろどりのはを ノックアウト

訳者あとがきには、
うみのうえ~は水の上を歩こうとしたらおっこちたという意味で
ないはずのくろどりの歯をたたきおとした男のナンセンス歌を
センダックが独自の解釈で楽しい世界をつくり絵本にしていると書かれています。

センダックがイメージするとこうなるのかーー
この歌だけで、イメージを真っ白な紙に自分で描いてみると
おもしろいかもしれません(笑)




『ふふふん へへへん ぽん!』
  ーもっといいこと きっとある

この本の1ページ目には ジェニーへ と書かれています。
病死した愛犬ジェニーが主人公です。
センダックの絵本は、ここではないどこかへ行って戻ってくるお話
が定番ですが、このお話は戻ってきません。

ジェニーは冒険に出かけ不思議な世界に迷いこみますが、さまざまな’けいけん’を積み、最後は念願のマザーグース劇場の主演女優になるというハッピーエンドです。
マザーグースの歌とともにカラッとした笑いで締めくくられるのに、読後に一抹の寂しさに襲われるのは、センダックの画に悲しみが溢れているからでしょうか。

絵本の表紙裏に、歌に関する面白いエピソードが書かれています。
ふふふん へへへん ぽん!(Higglety, Pigglety, pop!)の歌は、
マザーグースなんてくだらないと思っていたピーター・パーリーという人が、
子どもの本の世界にマザーグースが復活してきたことに腹を立て、
こんな歌なら子どもでも作れるといって即席で作った歌だそうで、
なんとそれがそのままマザーグースに組み入れられたということです。

Higglety, Pigglety, pop!
The dog has eaten the mop;
The pig's in a hurry,
The cat's in a flurry,
Higglety, Pigglety, pop!

リズムが楽しい!


物語の最後に、ジェニーのお手紙がついています。
成功して元気にやっているから安心してと書いて
最後はこう結ばれています。

ーーー ハルカノシロが どこにあるのか わからないので、
くるみちを おしらせできません。
でも、こちらへ くるようなことがあったら
たずねてきてください。   ジェニー


愛するものの死を’けいけん’して、
こんなお話をつくったセンダックは
素敵だなと思いました。
45年の時を経て、センダックはジェニーと
会えているでしょうか。

大好きなセンダック。
たくさん読めて楽しいひとときでした。

次回は、また戻ってコルデコットの絵本の続きです。



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娘の診察日の帰り道、一緒に東京タワーに上ってきました。
思ったより気持ちがよくて、1時間くらい眺めていました★











2018年6月21日木曜日

6月のくらべ読みセミナー

セミナー記録を書いていこうと思ったのに、まただいぶ日がたってしまいました。
6月2日のくらべ読みセミナーは、マージョリー・フラックの続きでした。
取り上げた本をご紹介します。


マージョリー・フラックが絵だけを描いた、
『ふわふわしっぽと小さな金のくつ』

出産で夢をあきらめて21匹の子ウサギのお母さんになったふわふわしっぽ。しかし見事な子育てぶりを長老に認められ、子どもたちの力で夢をかなえるという話。表紙にもある、きちんと隊列を組む姿が可愛らしくとても印象的。至らない母としては、拍手をおくりたいほど見事なお母さん。きちんとお母さんをしながら家事も見事にこなせる女性は、たいていの仕事はうまくやりとげられるのですね・・・



マージョリー・フラックが文章を書き、
絵をクルト・ヴィーゼが描いた『あひるのピンのぼうけん』、

『アンガスとあひる』を画を描きながらあひるに興味をもったマージョリーフラックがその生態の勉強するなかで生まれたお話だそうです。ひとり置いてけぼりになったピンがピンチを切り抜けるお話。
中国の雄大な揚子江が舞台です。画を描いたドイツ生まれのクルト・ヴィーゼは、若い頃中国に6年ほど住んでいたそうです。豊かな水をたたえたのどかな風景、静かに波打つ水の表情が素晴らしく、登場する人々のおおらかな明るさがとてもいいです。



クルト・ヴィーゼの描いた絵本ということで『シナの五にんきょうだい』もとりあげました。これは小さい頃に読んだ人も多いのではないでしょうか。もとは古い中国の昔話だったものを、パリの児童図書館員、クレール・H・ビショップが再話し、クルト・ヴィーゼが絵をつけました。福音館の石井桃子訳の絵本は絶版となりましたが、かわもとさぶろう訳で瑞雲舎より復刊されました。

私が小さい頃に出逢ったのは、石井桃子訳の絵本です。とにかくおもしろくて夢中になったのを覚えています。セミナーでは石井桃子訳とかわもとさぶろう訳とをすべて読み比べました。

比べてみると、訳のちょっとしたことで、中国のスケールの大きさや、不気味な感じが、伝わったり伝わらなかったりで面白さが違ってくるのがわかります

ひとつだけ例に挙げると、
このお話は見分けがつかなぬほどそっくりな5人兄弟が主人公。それぞれが一風変わった特技をもっています。例えば、海の水を飲み干せるとか、息をずっと止めていられるという具合に。。。三番目のにいさんは、足がどこまでものばせるにいさんでした。ここの訳を比較してみます。



川本三郎訳
「三ばんめの にいさんは うみに なげこまれました。 
ところが この にいさんも へいきです。 
うみのそこまで あしを どんどん 
のばすことが できるからです。 
そして かおを なみの うえにだすと 
にっこり わらって ぷかぷか ういていました。」 

石井桃子訳
「三ばんめの にいさんは、ふねから そとへ ほうりだされました。 
けれども、この にいさんの あしは、どんどん どんどん、 うみの そこに つくまで のびて いきましたので、 
いつまでたっても、あたまは、にこにこしながら、なみの うえに、ぷわぷわ ういていました。」 

この絵のユニークさ、不気味さがより表現されているのはどちらでしょうか。面白さが変わってきませんか?

一度イメージが伝わる訳に親しんでいると、新訳のあっさり省略されてしまっている部分がなんだか妙に物足りない。原文よりも翻訳のほうが良い場合もあるし、海外の本に及ぼす翻訳者の力は本当に大きいと感じます。現在石井さん訳の本は、図書館では借りられますが、中古品でもどこにも見つけらず手に入りません。。残念です;;


絶版の原因となった言葉の表現についても考えました。この絵本では、シナという呼び名と弁髪が問題視されています。セミナーではクルト・ヴィーゼの生い立ちにも触れました。

彼は6年間中国に住んで商売をしていましたが第一次世界大戦中、日本人にとらえられて、イギリス、オーストラリアに送られ5年間囚人として過ごします。その後ドイツに戻り、ブラジル、そしてアメリカへと移り住みました。そしてアメリカでイラストレーターとして成功したくさんの本に挿絵を描きました。『You Can Write CHINESE』
という漢字の本も見せていただきましたが、彼が中国の文化に親しみを持ち、好んで描いているのがよくわかります。

『シナの五にんきょうだい』を公共の場で読み聞かせするなんてとんでもないという声がいまもあるようですが、差別するために、子どもたちに絵本を書く人はいません。作者は子どもたちに生きる力を伝えるために本を描いています。文章を書いたクレール・H・ビ ショップは本にする前に400回、子どもたちに語って聞かせたといいます。

昔話なども同様です。一部の表現で安易に時代にそぐわぬと作品(お話)をなくしてしまうのは本当に残念です。その時代ならではの政治的な圧力もあったのかもしれません。問題視されていることは理解しながら、当時の時代背景とあわせて、作品の本質に向き合うことは、子どもたちにとっても、歴史を知るうえでも大切なのではないか。現代においても問題が続いているのであれば、注釈を加えて言葉を差し替える変更はあっていいと思います。一部の表現の為に、面白いお話まるごとなしくて、わくわくする機会がなくなってしまうのはとても寂しいことだなぁと感じます。


クルト・ヴィーゼの『You Can Write CHINESE』

中国の漢字がどのような形から生まれたのか
一ページに一文字ずつ、わかりやすく描かれています。
日本語版はありませんが、漢字の絵本なので
英語版でもじゅうぶん楽しめます。
欲しくなってしまった1冊です。





次回のくらべ読みセミナーは、ルドウィヒ・ベーメルマンス
7月7日山内地区センター第2会議室にて。









2018年6月4日月曜日

ルース・クラウスとセンダックの絵本

ぼくに平手打ちを食らわせるように
して、ルースはぼくを一人前に
鍛えてくれたのです。
ルース・クラウスは、もうけ主義と
いうかんばしくない習慣に
染まるより以前にいた、
米国の子どもの本をゼロから
生み出した一流の、
すばらしい、非凡な女性です。
(モーリス・センダック) 
季刊「子どもと本140号」より
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5月28日の絵本セミナーでは、
ルース・クラウスとセンダックが組んだ絵本を7冊読みました。
ルース・クラウスとセンダックは親子ほどの年の差があります。
一緒に本を作ったのはルース・クラウスが50歳、センダックが20代半ばごろです。

ルーシー・ミッチェル女史が、大人と子どもの教育機関として高い志のもと、1916年に創立したバンク・ストリート・カレッジ。そこでは、子どもを学ぶことからはじめるためのーどんな環境が子どもたちの教育と成長に適しているのかーー保育園が併設されていました。その子どもについての本を創作するための創作家養成所に、ルース・クラウスやマーガレット・ワイズ・ブラウンがいました。
どの絵本にも、まず最初のページには、保育園で出逢ったたくさんの子どもたちと、先生方への感謝の言葉が述べられています。

二人の作品の特に素敵な3冊をご紹介します。

『あなはほるもの おっこちるとこ』
 ~ちいちゃい こどもたちの せつめい
 R.クラウス文 M.センダック絵 わたなべしげお訳
 岩波の子どもの本

たくさんの子どもたちが遊ぶかわいい姿がいっぱい。
センダックが下絵をみせたところ、男の子が男の子らしいことをして、女の子が女の子らしいことしかしていない絵に、ルースは激昂したそうです。
絵本の一番最後、本を枕にして足をひろげて、すやすやと寝ている女の子がいますが、これも最初は男の子だったとか。。。こんな女の子、たくさんいます(笑)


いぬはひとをなめる どうぶつ
ては つなぐために あるの
あなは ほるもの
だきあうために うでが あるのよ
みみは ぴくぴく うごかすもの
おしろは すなばで つくるもの
かいがらは うみの おとを きくもの
ねこは こねこをうんでくれる どうぶつ
かいだんは すわるとこ
ほんは みるもの

英語版の方がミニサイズで、絵がより繊細で可愛いらしいです。




『うちがいっけんあったとさ』
 R.クラウス文 M.センダック絵 わたなべしげお訳
 岩波書店


ルースとぼくの最高作品!とセンダックはいっています。
夜の夢のように、一人の人間の私的な空想にとって、その秩序のなさと、流れと、うやむやさは本質的なものであり、ルースクラウスがもっとも惹かれていったものは、そのことであった。ーーセンダック
この絵本を楽しめる大人は、なかなかいないかもしれません。小さなお子さんに読んでみてこそ、の絵本ですが、実は声に出すと、いわんとする世界観を大人も楽しめます。センダックは当たり前のように、この空想世界を存分に楽しめる人だったのだと思います。英語版のカバーにはルース・クラウスと若かりし日のセンダック二人の写真が掲載されています。

More! More! More! 
てれつく てんてん すててんてん! ちん とん しゃん!
わたなべしげおさんの訳も素敵です。





『ぼくはきみで きみはぼく』
 R.クラウス文 M.センダック絵 江國香織訳
 偕成社


上2冊より少し大きくなった子どもたち
各ページ多様な構図で、様々なシーンが
豊かに描かれます。

直接子どもの中から生まれてきた一冊の本
ーーモーリス・センダック

こんなことあったな...こんなことしたな...
こんな匂いのこんな世界があったな...
ちいさい人たちの、おともだちの世界。
ふたごっぽくなりたいの
ふたごっぽい くつと ふたごっぽいコートで、
もしどっちかの コートがチェックなら、
もうかたほうも そうでなくちゃ、ふたごっぽくーーー
どっちかのいえに とまるときには、
なにもかも おそろいにするの、ふたごっぽく、
そのまえに でんわでそうだんするわ。
ーーーもっているなかで いちばんにている はなもようのパジャマ
ーーーミルクはコップの ちょうどおなじせんまで
ーーーおはかをとおりぬけるときは、
ふたり どうじに いきをとめる、ふたごっぽく
たとえいっしょに いないときでも そうするの

             





季刊『子どもと本』140号

「ルース・クラウスとぼく 
  --格別のパートナーシップ」

モーリス・センダックが書いた文章
(山本まつよ訳)が掲載されています。
絵本創作時の話、児童書への思い、
敬愛するルースへの思い、
ルースが亡くなるときの様子と悲しみ、
大金を生み出す以外に興味がない
出版業界への落胆と怒りが綴られています。
センダックの言葉はこちらから引用しました。


子どものやわらかい空想世界にどっぷりつかってあっという間の3時間....
ものすごく濃い時間でした。
また来月が楽しみです😊



5月30日にいつも活動している
地元図書ボランティアのOGメンバーで
ご近所のスペースを借りて、プログラムを組み、
1冊ずつ絵本の読みあいをしました。
ベテランぞろいで、聴きごたえ十分。
私はバーニンガムの『コートニー』を読みました。
たくさんの刺激をもらって楽しいひとときでした。
地元での活動もガンバロウ☆











2018年5月17日木曜日

魔法の黄色 マージョリー・フラック



月に二回楽しみにしている絵本セミナー。
月初めはくらべ読み、月末は絵本の歴史に沿って学ぶセミナーに参加しています。
どちらも主催してくださっているのは、子ども文庫の会の青木祥子先生。
今年で3年目になります。
新しい出会いはもちろん、知っている、よく慣れ親しんだ絵本であっても
毎回新しい発見があります。

今月はマージョリー・フラック。
アンガスシリーズ5冊と『おかあさんのたんじょうび』(Ask Mr.Bear)
と『あひるのピンのぼうけん』を読みました。
マージョリー・フラックのお話は、行って帰ってくる王道ストーリーを
横長の紙面を効果的に使った場面構成で楽しませてくれます。

シリーズものは何でも最初がいいと言われますが、全部通しで読んでもらうと
やはり最初の2冊『アンガスとあひる』『アンガスとねこ』が秀逸だなぁと思いました。
後3冊にくらべて画もストーリーも生き生きとしています。

このお話の最大の魅力は子犬アンガスの視線の高さ。
なんでもやってみたいのに、届かなかったり、ダメといわれたりして
できないことがたくさんある・・それはちいさな子どもたちのそれと同じ。
子どもたちはアンガスになってお話を楽しみます。

私がなにより心惹かれるのはこの作家の黄色の使い方。
この作家の黄色は魔法の黄色だなぁと思うのです。

黒犬のアンガスも白いあひるも大胆に黄色でかたどられ
外の地面は黄色一色。
絵本は白黒とカラーのページを交互に配していますが、
カラーページに黄色がないページはありません。


『おかあさんだいすき』(Ask Mr.Bear)
に出てくる男の子のダニーは、
顔も体も真っ黄色、髪も黄色でまっ黄黄。
最初見た時はぎょっとしました。

でもそれがいいのですね。
心温まるお話とリンクして、
黄色の画が心につよく残ります。


『アンガスとあひる』は知りたがりの子犬アンガスが、
庭の向こうから聞こえてくる音(実はあひるの声)の正体を知りたくて
外に飛び出し、あひるに遭遇。アンガスはあひるを威嚇して水飲み場を
横取りするのですが、逆にものすごい勢いで追っかけられて逃げ帰ると
いうシンプルなお話。

あひるの逆襲。。。これ、絵本そのまま。本当にものすごい迫力なのです。
シーシーシーシーシーシーシュ!!!



大昔になりますが、、、3歳の娘と一緒に、公園の草むらに腰かけていたら、
池で小学生3人が、あひるに石をなげてちょっかいを出しているのが見えました。
かわいそうだなと思った私は娘を置いて、注意をしに池のほうに。
声が届きそうなところまで来たところで、小学生たちが踵を返し
ワーッとこちらに走ってくるので、どうしたのかなと思ったら、
あひるが低姿勢でシュー!!!と声を上げながら
子どもたちを追いかけていました。

ぎゃーんと泣いたのは、草むらに座っていた娘。
振り返るとちょうど小学生の逃げ道に座っていた娘が、
突進するあひるの標的となり、足をガブリとやられていました。
時間にして30秒くらいの出来事・・;;

大した怪我にならなかったのは幸いでしたが、
小さい娘には恐かったことでしょう。
かわいそうでしたが、あひるのあっぱれな反撃に
私は心から拍手をおくったのでした。

公園に行くたびに慕っていたがあちゃんでしたが、
気性の荒さは子どもたちを刺激しやすかったのか・・・
数年後、地元の中学生に殺されてしまいます。
・・・・大変ショッキングな出来事でした。
しばらくの間公園の池の橋には、たくさんの手紙とお花が
絶えることがなかったのを記憶しています。

もえぎ野web文庫のイメージキャラクタのあひるは、がちょうのペチュニアをイメージして、当時文庫を運営されていた宮崎さんがお友だちに書いてもらったイラストですが、web文庫として引き継いだ時期が、があちゃんを偲ぶ時期と重なり、Gaakoと名前をつけて使わせていただくことになりました。

があちゃんは、もえぎ野web文庫のイメージキャラクタとして
今も私のなかにいます。



来月のくらべ読みセミナーは、引き続きマージョリー・フラックです☆




先月季刊誌『子どもと本』の第153号が
発刊されました。
モーリス・センダックの絵本
『わたしたちもジャックもガイもみんなホームレス』
について、イギリスの雑誌に掲載された
児童文学研究者のジェイン・ドゥーナンの文章が
青木祥子先生の翻訳で14Pにわたって掲載されています。
絵本の表紙の画はキリストが死と悪魔の支配を打ち破り、
旧約聖書の人々を天国へと救い出す姿を描いた
Descent into Limbo(リンボへの降下)そっくりとのこと。
センダック好きは必読。読み応えたっぷりです☆